便利な車はこれからも買える。でも4Cは今しか乗れない



みなさん、こんにちは。田舎の片隅で、絶賛体力の坂道を転がり落ちている50代のオタクなおっさんです。

最近はとにかく身体のあちこちにガタが来ておりまして、朝起きれば腰が重く、夕方になれば老眼でスマホの文字がかすみ、油っこいものを食べれば即座に胃もたれを起こすという、実にリアルで順調な加齢ライフを満喫しております。

そんな体力の衰えを全身で実感している私が、夜な夜なネットの自動車レビューやSNSなどを眺めていて、どうしても首をかしげたくなる言説があるんですよね。

それが、私の愛車でもある「アルファロメオ 4Cスパイダー」に対する、こんな評価です。

「車体が小さくて軽いから、実は日常使いでも扱いやすい」 「1.75Lターボで維持費も現実的だし、普段使いの足としても優秀」

……本当に乗ってから言っていますか?

思わず画面に向かって「ちょっと一回、うちの4Cに乗ってみます?」と問いかけたくなります。ネットに漂うそういった生ぬるい一般論に対して、現在進行形で4Cと格闘している50代のおっさんとして、はっきりと現実をお伝えしなければならないという妙な使命感に駆られております。

結論:老人が日常に乗るには、色々厳しすぎます

回りくどい言い方はやめましょう。結論から申し上げます。

老人が日常に乗るには、色々厳しすぎます。

大事なことなので、もう一度言いますね。

老人が日常に乗るには、色々厳しすぎます。

「ちょっと近所のスーパーまで」「天気がいいから道の駅までドライブ」なんて軽い気持ちで50代のおっさんが乗り込もうものなら、目的地に着く前に体力と精神力を根こそぎ持っていかれます。

「快適な普段使い」なんて言葉は、この車の辞書には1ミリも存在しません。絶対に、不可能です(笑)。

アルファロメオ 4Cスパイダーが突きつけてくる「容赦ない現実」

では、なぜそこまで日常使いが厳しく、老体に応えるのか。私が日々の運転で叩きのめされている「4Cの容赦ない現実」を、ファクトベースでお話ししていきましょう。

1. 脊柱へダイレクトに響く「ハードな乗り心地」

4Cのサスペンションには、ドライバーの腰を労わるという概念が一切ありません。剛性の塊のようなカーボンモノコックシャシーに直接シートがくっついているような構造ですから、路面の凹凸という凹凸を、何一つごまかすことなくダイレクトにドライバーの背骨へ叩き込んできます。

アスファルトの継ぎ目を超えれば「ガツン!」、小さな小石を踏めば「カツン!」。車線変更の減速帯なんて通過しようものなら、脳みそが揺れて目まいがするレベルです。腰痛持ちの50代にとって、1時間を超えるドライブはもはや拷問以外の何物でもありません。

2. 駐車場での取り回しで腕が死ぬ「重ステ(ノンパワステ)」

この現代において、4Cにはパワーステアリングが付いていません。完全なるノンパワー、いわゆる「重ステ」です。

走り出してしまえば、これ以上ないほどクリアでダイレクトなステアリングフィーリングを味わえるのですが、問題は停車時や超低速での取り回しです。狭い駐車場で切り返しをしようものなら、ハンドルが笑えるほど重い。両腕の筋肉をフル稼働させて必死にステアリングを回していると、車庫入れが終わる頃には肩と腕がプルプルと震え出し、翌日の激しい筋肉痛が確約されます。

3. 冷風は出るのに頭上が直火焼きされる「黒い布一枚の幌」

ネットでは「エアコンが効かない」なんて噂も聞きますが、実はエアコン自体は至って優秀で、吹き出し口からはちゃんとキンキンに冷えた冷風が出てきます。

じゃあ快適なのかと言われれば、全くそんなことはありません。理由はシンプルで、4Cスパイダーの幌(ソフトトップ)が「本当にただの黒い布一枚」だからです。

夏の強い日差しを黒い布切れが容赦なく吸収し、頭上から強烈な輻射熱を放射してきます。顔や体には冷風が当たっているのに、頭頂部はまるで直火で炙られているかのように熱い。この「頭熱足寒」状態の車内に包まれていると、じわじわと体力が奪われ、熱中症になりかけるという珍現象に見舞われます。

4. 1000万円級なのに軽トラ並みな「プラスチッキーな内装」

4Cの新車価格や現在の相場を考えれば、1000万円前後の立派なエキゾチックカーの領域です。さぞかし豪華なレザーや洗練されたインテリアが広がっているのだろうと期待してドアを開けると、目の前に広がるのは驚くほどプラスチッキーで質感のヘボい空間です。

「……あれ? これ軽トラの内装だっけ?」と思わず二度見してしまうほどの潔さ。開発コストのほぼ全てをカーボンモノコックシャシーと走りのメカニズムに注ぎ込み、インテリアの質感など微塵も気にしていないという狂気の割り切り。ヘボいと言ってしまえばそれまでですが、この突き抜け感は脱帽モノです。

5. リクライニング不可なのに前に倒れる「謎のシート仕様」

そして、乗るたびに「イタリア人の思考回路はどうなっているんだ」と頭を抱えそうになるのが、シートの謎仕様です。

まず、シートの背もたれはリクライニングしません。角度調整という概念が存在しないため、常に一定のスパルタンな姿勢を強要されます。これだけでも腰痛持ちのおっさんには厳しいのですが、さらに理解不能なのが「背もたれがパタンと前に倒れる」ということです。

4Cは2シーター(2人乗り)のミッドシップ車です。座席の後ろにはエンジンが鎮座しており、後部座席なんてものは最初から存在しません。シートの後ろに荷物を置くスペースすらほとんどないのに、なぜかシートだけは前に倒れるのです。

リクライニングして休憩することは許さないくせに、後ろに誰もいないシートを前に倒す機能だけはバッチリ備わっている。この設計思想の迷宮には、何度乗っても深い味わい(と困惑)を感じざるを得ません。

6. 恐怖で脳が焼け落ちる「離陸しそうな加速」

1.1トンを切る超軽量ボディに、240馬力を発揮する1.75L直列4気筒DOHCターボエンジン。数字だけ見るとピンとこないかもしれませんが、いざアクセルペダルを深く踏み込んだ瞬間、景色が一変します。

背後でタービンが狂ったような吸気音を響かせたかと思うと、車体がフワッと浮き上がるような錯覚と共に、まるでジェット旅客機が滑走路から離陸する瞬間のような強烈なGが襲いかかってきます。50代の遅くなった動体視力では処理が追いつかず、あまりの恐怖に脳が焼き切れそうになります。

7. 遊びが1cmしかない「スイッチみたいなブレーキ」

そして、その猛烈な加速を止めるためのブレーキペダルがまた恐ろしい。普通の乗用車のような「踏み込んでいくと徐々に効いていく」という踏みシロの遊びがほぼありません。

踏みシロは実質1cmくらいでしょうか。足を乗せて少し力を入れた瞬間、ガツン!と強烈に初期制動が立ち上がる、まるで「オン・オフのスイッチ」のようなブレーキです。ミリ単位の繊細な足裏のコントロールが求められるため、右足の筋肉は常に張り詰め、運転が終わる頃には足の裏まで疲労骨折しそうなほど疲弊します。

それでも「便利な車はこれからも買える。でも4Cは今しか乗れない」理由

ここまで散々ボロクソに書いてきました。乗り心地は劣悪、ハンドルは重い、エアコンは冷えても頭上が激熱、内装はプラスチッキー、シートはリクライニングしないのに前に倒れる、加速は凶暴でブレーキはスイッチ。

普通に考えれば、日常使いなんて到底不可能な「不便の役満」みたいなクルマです。

では、なぜ私のような50代のおっさんが、体のあちこちを痛めながらもこの車を手放さずに乗り続けているのか。

タイトルにも掲げましたが、理由はただ一つ。便利な車はこれからも買える。でも4Cは今しか乗れないからです。

この車最大の価値は、市販車としてあり得ない構造にあります。フルカーボンファイバー製のモノコックシャシーなんて、本来であれば何千万円もする超高級ハイパーカーにしか許されない構造です。それを1000万円前後の価格帯で市販してしまったアルファロメオの狂気。これは自動車の歴史において、間違いなく最初で最後のバーゲンプライスでした。

当然、生産が終了した今、年式が古くなるにつれて状態の良い低走行の極上車は市場からどんどん枯渇していきます。手に入れるチャンスは今この瞬間にも減り続けているのです。

そして何より、ハードな乗り心地も、重ステも、頭が炙られる幌も、ヘボい内装も、謎のシートも、離陸しそうな加速も、スイッチみたいなブレーキも……その「不便さの全て」が、他のどんな最新スポーツカーでも味わえない強烈な特別感を与えてくれます。

エンジンをかけ、重いハンドルを両手で抑え込み、ダイレクトすぎる路面の感触を全身で受け止めながら走る瞬間、50代になって鈍くなった私の五感は一気に覚醒します。脳が焼けるようなアドレナリンがドバドバと溢れ出し、「生きている実感」が全身を突き抜けるのです。

便利な車、快適な車、自動運転に近い最新技術を積んだ車は、お金さえ出せばこれからもいつでも買えます。時代の進化とともに、便利で快適な車はこれからも世の中に溢れていくでしょう。

しかし、こんな時代錯誤で不便で、純粋な走りの衝動だけで作られた狂気のクルマは、もう二度と作られません。

便利な車はこれからも買える。でも4Cは今しか乗れない。

自分の体力、視力、そして反応速度が残っている「今」乗っておかないと、死ぬ時に絶対に後悔する。そう確信しているからこそ、私はこの不便すぎる愛車に乗り続けているのです。

おわりに

普通の乗用車としての点数をつけろと言われれば、間違いなく赤点どころか0点です。 ですが、いつ何が起きるかわからないスリルと圧倒的な不便さを愛し、刺激に飢えたオタクの玩具としては間違いなく100点満点。

そんな理屈を超えた魅力を放つアルファロメオ 4Cスパイダーですが、これからも腰に湿布を貼り直し、頭皮の熱さに耐えつつ、たまに引っ張り出しては「うおっ、やっぱり重ステきつい!」と叫びながらドライブを楽しみたいと思っております。

不便さを愛おしむという、なんとも面倒くさいおっさんの独り言に長々とお付き合いいただき、誠にありがとうございました。